第2回:デンマークで見た「その人の部屋」と、日本の介護現場で感じた違和感

以前、デンマークの高齢者施設を視察したことがあります。

当時の僕は、介護の仕事を始めて数年が経った頃でした。
今振り返ると、介護の仕事について十分に理解していたわけではありません。
今でも十分とは言えませんが…

そして正直に言えば、視察に対して積極的だったわけでもありません。
自分自身が仕事に悩んでいた時期で、少しふてくされていた部分もありました。

それでも、現地で見たものの中には、今でも印象に残っていることがあります。

その一つが、利用者さんの居室でした。

施設の部屋ではなく、その人の部屋

僕の視察したデンマークの高齢者施設では、居室に置かれている家具や装飾が、一人ひとり違っていました。

モダンな雰囲気の部屋もあれば、木のぬくもりを感じる部屋もある。雑貨屋のように、さまざまな物が並んでいる部屋もありました。

同じ施設の中にある部屋なのに、どの部屋にも個性があります。

日本の施設でよく見る、同じようなベッドや家具が並んだ部屋とは、かなり印象が違いました。

そこにあったのは、「施設の部屋」というよりも、「その人の部屋」でした。

当時、通訳の方から、デンマークの国民性は「衣食住の中でも、住を大切にする」という話を聞きました。

居室へのこだわりを見ていると、その説明にも納得できました。

自分が暮らす場所を、自分らしく整える。

それは、生活の質や尊厳にもつながる大切なことだと思います。

日本ではどうか

日本の特養でも、入居時には「馴染みのものを持ち込み可能」と伝えることがあります。

しかし、実際に持ち込まれるのは、ホームセンターで新しく購入した衣装ケースや、100円ショップで購入した箸や茶碗などであることも少なくありません。

もちろん、新しい物が悪いわけではありません。

必要な物をそろえ、施設での生活を始めるためには、それも大切な準備です。

また、本人にとって何が大切だったのかを、ご家族が十分に把握できていないことが多くあったことも事実です。

「その人らしい部屋をつくりましょう」と言っても、何を置けばその人らしくなるのか、簡単にはわかりません。

中には、大好きな氷川きよしのポスターを壁一面に貼ったり、こだわりの家具を持ち込んだり、”その人の部屋”だと感じることができる居室作りのお手伝いをさせて頂いたこともあります。

しかし、これは自分の意思を伝える事のできる方で、さらに拘りも持っている方だったから実現できたことだと思っています。

意思を伝えることが難しい方などの対応は、何が正しいのか、本当に悩ましい部分でもあります。

その人らしさは、家具や装飾だけではない

僕の住んでいる地域では、農業や養蚕をしてきた利用者さんが多くいます。

以前、ある利用者さんが、

「人間より、お蚕様の部屋の方が多かった」

と笑いながら話してくれたことがありました。

家族のために一生懸命働き、家よりも仕事を優先してきた方もいます。

そうした方にとって、「自分らしい暮らし」とは、居室をおしゃれに整えることだけではないかもしれません。

昔の仕事の話を聞くこと。

季節の変化を感じてもらうこと。

近所の人とお茶を飲んでいた習慣を大切にすること。

誰かと一緒に過ごし、会話を楽しむこと。

そうした関わりの中に、その人らしさが表れることもあります。

暮らしの継続とは、以前使っていた物を持ち込むことだけではありません。

生活歴、習慣、役割、人とのつながり、価値観。

その人が長い時間をかけて築いてきたものを、現在の生活の中でどのように支えるかということだと思います。

海外の形を、そのまま日本に持ち込めるのか

デンマークで見た居室は、とても魅力的でした。

利用者さんが自分の好きな物に囲まれ、自分らしい空間で暮らしている。そこには、施設に入った後も自分の生活を続けていくという考え方がありました。

ただ、それをそのまま日本に持ち込めば、同じようなケアが実現できるのでしょうか。

僕は、必ずしもそうではないと思っています。

国が違えば、住宅事情も違います。

家の広さ、家具の使い方、家族との距離感、地域のつながり、生活習慣も違います。

さらに、日本の中でも地域によって違います。

都会で暮らしてきた方と、農村地域で暮らしてきた方では、日常の風景も、長年の習慣も違います。

同じ地域であっても、世代によって価値観は変化しています。

だから、「その人らしさ」を家具や装飾だけで表現しようとすると、かえって本質から離れてしまうことがあるのではないでしょうか。

海外の制度や理念を学ぶことは大切です。

しかし、海外の形をそのまま再現することと、その理念を日本の現場に合わせて生かすことは、別の話だと思います。

日本の介護現場にある「関わり」の価値

デンマークの施設を見たとき、居室の環境には大きな魅力を感じました。

一方で、僕の個人的な印象では、日本の介護職員の方が、利用者さんとの関わりが多く、温かいように感じた部分もありました。

もちろん、視察の中で見えた一場面に過ぎません。国全体を比較できるほどの経験ではありません。

それでも、日本の介護現場には、利用者さんのために頑張ることを大切にする文化があるように思います。

手を握る。

隣に座る。

話を聞く。

一緒に過ごす。

その人のために、少しでも何かをしようとする。

こうした関わりを、利用者さんが喜んでくれる場面は少なくありません。

日本には、「おもてなし」や、相手のために尽くすことを大切にする考え方があります。

それが介護現場の良さにつながっているのかもしれません。

ただし、こうした関わりも、職員の無理や頑張りだけに頼ってしまえば、長く続けることはできません。

地域と世代に合った「その人らしさ」

ユニットケアでは、「その人らしい生活や暮らしの継続」が大切にされます。

しかし、その人らしさは、全国どこでも同じではありません。

デンマークで大切にされていた居室のあり方が、日本のすべての地域で同じように受け入れられるとは限りません。

さらに、同じ日本でも、地域や世代によって大きく違います。

農業や養蚕をしてきた方にとっては、畑や仕事の話が大切かもしれません。

人とのつながりを大切にしてきた方にとっては、誰かとお茶を飲み、会話をする時間が大切かもしれません。

家族のために働き続けてきた方にとっては、何かの役割を持つことが、その人らしさにつながるかもしれません。

だからこそ、個別ケアを考えるときには、目の前の利用者さんがどのような時代を生き、どのような地域で暮らし、何を大切にしてきたのかを知る必要があります。

ユニットケアの形ではなく、目的を考える

ユニットケアの考え方を否定したいわけではありません。

少人数の生活単位をつくり、家庭的な環境の中で暮らしてもらうことには、大きな意味があります。

ただ、ユニットケアという形を整えることが目的になってしまうと、少しずつ本質から離れてしまうのではないでしょうか。

大切なのは、利用者さんに向き合うことです。

小さな積み重ねが、「ここでよかった」という気持ちにつながると信じています。

海外の理念を学ぶことは大切です。

しかし、それをそのまま形として持ち込むのではなく、
日本の国民性や地域性や世代、現在の利用者さんの状態に合わせて考え直す。

「その人らしさ」とは何なのかを、チームで考える。

答え合わせのできない仕事ではありますが、
目の前の利用者さんに向き合い続けることが大切だと感じています。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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この記事を書いた人

介護福祉士「miya」
福祉の授業がきっかけで介護の道へ
気づいたら19年
経験:特養・養護・通所・訪問
現在:特養
趣味:釣り、ウイスキー、コーヒー、園芸、アウトドア、ファッション

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