介護の仕事をしていると、「ユニットケア」という言葉を耳にする機会があります。
ユニットケアとは、本当にざっくりいうと、個別ケアを行うための手法のひとつです。
とても大切な手法だと思います。
しかし、現場で働いていると、理想と現在の特養には、少しずつ距離が生まれているようにも感じます。
現在の特養
ユニットケアが広がった当初と比べ、現在の特養では、利用者さんの状態が大きく変化しているように感じます。
特養は原則として要介護3以上の方が入居する施設ですが、当初はこのような制限はありませんでした。
もちろん介護度が上がれば身体介護の量が多く、認知症の症状が重い方もいます。
さらに、看取りや医療的な対応が必要な場面も増えています。
利用者さんの重度化が進めば、それだけ一人ひとりの介助に時間が必要になります。
排泄、食事、入浴、個々の対応。そこに急変時の対応や家族への連絡、記録、医療職との連携なども加わります。
そのような状況の中で、家庭のような雰囲気をつくり、利用者さんの希望に合わせて柔軟に生活を組み立てることは、決して簡単ではありません。
利用者さんの状態が変化している一方で、制度や、業務の仕組みが十分に変わっていなければ、現場に大きな負担がかかるのではないでしょうか。
施設のリズムに合わせることも必要?
僕は、施設に入居したら、ある程度は施設の生活リズムに合わせることも大切だと思っています。
これは、利用者さんの希望を軽視するという意味ではありません。
施設には、複数の利用者さんが暮らしています。そして、職員の人数にも限りがあります。
食事の時間が決まっていれば、そこから逆算して、お茶の時間や排泄介助などの時間もある程度決まってきます。
一人の利用者さんの希望に合わせて、すべての時間を自由に変えてしまえば、他の利用者さんへの支援に影響が出る場合もあります。
自宅のようにとは言っても施設は施設。自宅とは違い、共同生活の場です。
そのため、すべてを一人ひとりの希望に合わせるのではなく、共同生活として共有するリズムも必要ではないかと思います。
大切なのは、施設のリズムに合わせてもらうことと、個別ケアを諦めることは別だということです。
決められた時間の中で個別性を考える
例えば、お茶の時間そのものを大きく変えることは難しいかもしれません。
しかし、その時間の中で個別性を出すことはできます。
- どんな飲み物が好きか
- 温度や甘さはどうか
- どの席が落ち着くか
- 誰と一緒に飲みたいか
- どんな話をしたいか
こうした工夫であれば、施設全体の生活リズムを大きく変えなくても実践できます。
個別ケアとは、施設の枠組みを一人ひとりに合わせて変えることだけではありません。
施設の枠組みの中で、その人に合わせられる部分を見つけることも、現実的な個別ケアではないでしょうか。
食事の時間を全員で共有しながら、好きな飲み物を選べるようにする。
お茶の時間を同じにしながら、落ち着く席や気の合う人と過ごせるようにする。
このような小さな工夫でも、利用者さんにとっては「自分のことを考えてくれている」と感じられるかもしれません。
「暮らしの継続」は物を持ち込むことだけではない
以前、デンマークの高齢者施設を視察したことがあります。
そこでは、居室に置かれている家具や装飾が一人ひとり違っていました。モダンな部屋もあれば、木のぬくもりを感じる部屋もある。雑貨屋のような雰囲気の部屋もありました。
施設の部屋というより、その人自身の部屋という印象でした。
一方、日本の施設で「馴染みのものを持ち込んでください」と伝えても、入居時に持ってくるのは、新しく購入した衣装ケースや食器などであることも少なくありません。
もちろん、それが悪いわけではありません。
ただ、海外の事例をそのまま日本に持ち込んでも、同じように本人の暮らしが再現できるとは限らないと感じました。
僕の住んでいる地域では、農業や養蚕をしてきた利用者さんが多くいます。
「人間より、お蚕様の部屋の方が多かった」と笑って話す方もいました。
そのような方にとって、その人らしさは、家具や装飾だけでは表現できないかもしれません。
畑の話をすること。
昔の仕事の話を聞くこと。
近所の人とお茶を飲んでいた習慣を大切にすること。
家族のために働いてきた人生を知ること。
暮らしの継続とは、以前使っていた物を持ち込むことだけではありません。生活歴や習慣、役割、人とのつながりを、今の生活の中でどのように支えるかということでもあると思います。
ユニットケアを目的にしない
ユニットケアを否定したいわけではありません。
ただ、”ユニットケアを行うことが目的”になっていないかと問いたい時があります。
目的は、利用者さんが安心して暮らせることです。
そのためのひとつの手法がユニットケアです。
限られた環境の中でも、利用者さんが「ここで暮らしてよかった」と思える時間を増やす。
そのために、可能な範囲で個別性を持たせる。
施設のリズムを共有しながらでも、その中で本人の好みや習慣、安心できる人間関係を大切にする。
できないことは、できない理由を説明し、代わりにできる方法を考える。
そして、それを職員一人の頑張りだけにしない。
これからのユニットケアに必要なこと
これから必要なのは、ユニットケアという形を守ることではなく、その目的を見失わないことだと思います。
施設はホテルでも、自宅でもありません。
複数の利用者さんが暮らし、限られた職員が支える共同生活の場です。
だから、施設として共有する生活リズムは必要です。その中で、どこまで個別性を持たせるのかを考える。
利用者さんの希望をすべて実現することが、個別ケアではありません。
職員が疲弊し、無理を重ねなければ成立しない支援であれば、長く続けることはできません。
良いケアとは、熱心な職員がいるときだけ実現するケアではなく、職員が無理をしなくても続けられるケアです。
ユニットケアは、崩壊しているのでしょうか。
もしかすると、崩壊しているのはユニットケアそのものではなく、当初の理想を、変化した現在の特養にそのまま当てはめようとしていることなのかもしれません。
今の利用者さん、今の職員、今の制度、今の施設環境。
その現実に合わせて、何を共有し、何を個別化し、何を大切にするのか。
そこをチームや施設で考え続けることが必要かもしれませんね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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