【第8回】入居施設において、利用者を選ぶことは必要か?


✅ 利用者を「選ぶ」ことへの葛藤

介護施設において、入居希望があれば基本的には受け入れる。
その姿勢自体は当然のことですし、僕自身も「できる限り受け入れたい」という想いがあります。

しかし現実には、特定の利用者に過度な負担が集中することで、他の利用者へのケアが手薄になってしまうという状況が生まれています。

  • 重度な認知症で動きが多く、転倒リスクが高い
  • 人の部屋に入り込み、トラブルの原因となる
  • 昼夜問わず10分おきにナースコールを押す
  • 訴えが多く、明らかに人手を要する

こうしたケースは決して珍しいことではありません。


✅ ひとりに偏るリスクと現場のジレンマ

このような利用者がいるだけで、職員の意識や行動がその個人に向かってしまうのが現実です。
その結果、他の利用者さんへのケアが後回しになり、施設全体のバランスが崩れてしまう。

特に問題なのは、本来大切にしたい「個別ケア」が実現できなくなることです。
「みんなを平等に大切にしたい」と思って働いている職員ほど、このジレンマに苦しみます。


✅ 稼働率という数字の罠

施設運営において「稼働率」は重要な指標です。
空きベッドを作らない、入居希望を断らない。
それが安定経営に直結することは理解できます。

しかし、目先の稼働率にとらわれてしまうと、現場の職員が割を食うことになるのではないでしょうか。

  • 特定の利用者への対応に追われ、他の方へのケアが疎かになる
  • 職員の心身の疲弊が進む
  • 結果的に離職が増え、さらに現場が回らなくなる

短期的には稼働率を守れたとしても、長期的には大きな損失につながる危険性があります。

✅ 経営と現場の「温度差」

現実的に、稼働率を上げることは安定した収入に直結します。
介護保険制度の枠がある以上、理想ばかりを追いかけても給与が上がらない、昇給がない――これでは「職員を守る」ことにもなりません。

経営陣にとって、数字と理想のバランスを取るのは本当に難しく、悩ましいことだろうと思います。
しかし現場の職員は、経営陣がそうやって苦しんでいる姿を感じ取ることができているでしょうか。

どうしても、**「数字ばかりを見て、現場の声を聞こうとしない」**ように見えてしまうのです。
経営陣だって葛藤があり、悩み続けているはず。
であれば、その「姿勢」や「思い」をもっと現場に示してほしい。

そのほうが、組織として一体感が生まれるのではないかと僕は感じています。


✅ 理想と収益をつなげる制度設計を

現場の職員が求めるのは、ただの理想論ではありません。
理想を追うことが、そのまま収益に結びつく制度設計です。

例えば、手厚いケアを提供することで評価が上がり、収入にも反映される。
利用者にとっても「ここに入ってよかった」となる。
そうした流れができれば、現場も経営も本当の意味で同じ方向を向けるのではないでしょうか。

僕は平凡な介護福祉士にすぎません。
それでも、そんな未来を描きながら、目の前の仕事と向き合い続けたいと思っています。


今回のシリーズでは、ニーズの”多様化”について考えています。

【第1回】利用者の世代交代と現場の葛藤
【第2回】利用者像の変化と“芯の強さ”へのリスペクト
【第3回】変化する現場──これからの介護職に求められること
【第4回】組織として考える「過度な要求」と「職員を守る仕組み」
【第5回】現場を守るために「仕組み化」が必要な理由
【第6回】職員を守ることは、社会を守ること
【第7回】職員を守るための具体的な仕組みづくり
【第8回】入居施設において、利用者を選ぶことは必要か?
【第9回】経営と現場をつなぐ“対話”の重要性
【第10回】信頼を築くための実践方法 ― 経営と現場の“橋渡し”
【番外編】地域の力という理不尽と強み


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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この記事を書いた人

介護福祉士「miya」
福祉の授業がきっかけで介護の道へ
気づいたら18年
経験:特養・養護・通所・訪問
現在:特養
趣味:釣り、ウイスキー、コーヒー、園芸、アウトドア、ファッション

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