介護の現場で「尊厳を守る」とは、決して特別なことではありません。
むしろ、日常の中に小さく潜んでいる“選択の積み重ね”こそが、尊厳を支える行為だと私は思っています。
今回は、私がこれまでの施設勤務の中で出会った、印象的な場面をいくつか紹介します。
「お風呂に入りたくない」その言葉の裏側に
ある日、入浴介助の時間に「今日は入りたくない」と強い口調で言われた利用者さんがいました。
多くの現場では、スケジュール通りに進めることが優先されがちです。けれど僕は、無理に促すのではなく、少し立ち止まって話をすることにしました。
「どうして入りたくないんですか?」と聞くと、
「恥ずかしいの。若い人に裸を見られるのが嫌でね」と静かに言われました。
その方は、かつて学校の先生をされていた女性。常にきちんとした服装をされ、礼儀を重んじる方でした。
「先生のような方に、こちらの対応が失礼だったのかもしれない」と気づき、以降は同性の職員が対応するようにしました。
すると次から、「今日はお願いね」と笑顔で言ってくださるようになりました。
尊厳とは、身体的なケアの中にも“心の尊重”が含まれている。
そのことを、改めて教えてもらった出来事でした。
今でこそ同性介護は当たり前ですが、十数年前は当たり前ではありませんでした。逆に、同性の女性職員では断固として入らないのに、僕の時は喜んで入るという、笑ってしまうようなこともあるので、介護の仕事は面白いなと感じる一面もあります。
「いつも通りでいい」—その人の“日常”を守ること
別の男性利用者さんは、必ず髪を整えるのが習慣でした。
ある日、体調を崩して静養中心になってしまった時、他の職員が「寝ているからいいでしょ」と整髪を省こうとしました。
僕は「〇〇さんはいつも身だしなみを大切にされていましたよね。今日も整えましょう」と伝え、櫛で髪を整えました。
その瞬間、閉じていた目を少し開き、穏やかな表情を見せてくれました。
ほんの小さなことですが、
「その人の“いつも通り”を守ること」も尊厳の一部なのかなと感じた瞬間でした。
「できること」を奪わない
食事介助の場面でも、尊厳は表れます。
ある利用者さんは麻痺があり、食事に時間がかかっていました。忙しい時間帯になると、どうしても「代わりに職員が食べさせた方が早い」と思ってしまいがちです。
しかし、その方は「自分で食べたい」と強く希望されていました。
たとえ時間がかかっても、手を添える程度にして見守るようにしました。
その結果、「今日は全部自分で食べられた!」と嬉しそうに話してくれ、その他のことも積極的に努力するようになりました。
“効率よりも本人の想いを優先する”——これもまた、尊厳を支えるケアの形です。
現場でできる「尊厳を守るケア」とは
尊厳を守るケアとは、「大切に扱う」ことを超えて、
**“その人がその人らしく生きることを支える”**という実践です。
現場は常に時間に追われ、理想だけでは動けないこともあります。
しかし、日々の中で立ち止まり、「この対応はその人にとってどうだろう?」と考えることが、尊厳を守る第一歩になると思います。
小さな気づきが積み重なることで、介護の質は確実に変わっていく。
そう信じて、今日もこれからも現場に立ち続けたいと思っています。
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👉第1回:介護における「尊厳」とは何か ― 改めて立ち返るために
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